WORK

2019年にNHK総合でパイロット版が放送され、2020年にレギュラー番組化された『たけしのその時カメラは回っていた』。こうした新番組の立ち上げは、常にチャレンジの連続。様々な壁に手探りで取り組んでいった、若手ディレクターの挑戦をご紹介します。
G
プロフィール
- 所属
- 情報文化番組
- 出身校
- 東京大学
- 出身地
- 新潟県
- 趣味
- サッカー
- 入社の決め手
- NEPなら番組づくりだけでなく、そこから発展させた様々な事業も手掛けられると思ったから。

経歴
- 2010年4月
- 新卒入社
- 2010年5月
- 事業本部にて、主に一般企業から受注した映像やイベントの制作を担当
- 2011年4月
- 制作本部に異動。サブディレクターを経て、レギュラー番組や特集番組のディレクターを担当
- 2012年6月
- NHK仙台局で研修派遣。ディレクターとして、震災関連のリポートや番組を制作
- 2013年6月
- 制作本部に戻り「プロフェッショナル 仕事の流儀」などを制作
- 2015年5月
- NHKコスモメディアヨーロッパ(ロンドン)に3カ月の研修派遣
- 2015年8月
- 再び制作本部に戻り、「2度目の旅」「映像の世紀プレミアム」「BS1スペシャル 失われた大隊を救出せよ」などを制作
- 2019年9月
- 「たけしのその時カメラは回っていたパイロット版 #3」を制作。同番組のレギュラー放送開始後も引き続きディレクターを担当
- 2020年
- YouTubeコンテンツ「しんがたコロナってなんだろな」、Amazon Primeコンテンツ「プレパレ」を制作
※2014年、2018年にそれぞれ育児休職を取得。




CHAPTER.01
硬派な番組から、バラエティーを生みだそう
私は入社6年目からBSプレミアムの『映像の世紀プレミアム』という番組のディレクターを務めてきました。この番組は、世界中から歴史的な人物・出来事に関する資料映像をかき集め、歴史の新たな一面を発見。それを物語仕立ての構成で視聴者に提示する、ハイブローなドキュメンタリーシリーズです。
制作チームは毎回、数千本の歴史映像を収集・管理し、目を皿にしてチェックするのですが、オンエアに至るのはごく一部。日の目を見ないデータは膨大な数に上り、「もったいない」「なんとか活かしたい」という想いも積み重なっていきました。
こうした中で、同番組を担当するNEPのチーフプロデューサーが、2019年度のNHK総合の番組改編期に向けて、“映像発掘エンターテイメント”と題した新番組を企画。我々が蓄積したアーカイブスはもちろん、これまで培ってきたメッセージ性、映像の力、構成の妙なども活かして、広くあまねく、多世代の視聴者に楽しんでもらえる教養バラエティーをつくろうと考えたのです。
そこで、2018年10月。私を含め10名以上のスタッフが集まり、第1回目の企画会議が開かれました。新番組のコンセプトは、「笑いによって、現代史の知られざる一面とメッセージを伝える」というもの。では、どんな番組フォーマットにすれば、新しい視聴者に届けられるのか?ストイックなドキュメンタリーから、誰もが楽しめる柔らかいバラエティーへ。発想の転換が求められました。特に私の場合、ゼロから番組づくりに携わるのは、この時が初めての挑戦。最初は、この手の企画に強い放送作家さんを探すだけでも四苦八苦しましたね。

CHAPTER.02
試行錯誤できるって、刺激的
さまざまな方をブレーンとして招き、関係者全員が知恵を絞り合い、幾度となく企画会議を重ねて。紆余曲折の末に、「スタジオ収録で、MCとゲストが映像をもとに語り合う、クイズ形式のトーク番組」という番組のフォーマットが決定しました。
となれば、次はキャスティングです。MCにはやはり、その人が出ているだけで「番組を見てみたい」と思うような、ネームバリューのある大物芸能人を据えたい。ここで全会一致の第一候補にあがったのが、ビートたけしさんでした。そこで、ビートたけしさんの出演番組を制作したNEPのプロデューサーに相談してマネージャーさんをご紹介いただき、上司と私とで訪問。新番組のプレゼンを行いました。この時は手汗をびっしょりかくほど緊張しましたが、出演を快諾いただけたことで、番組タイトルも『たけしのその時カメラは回っていた』に正式決定。企画に背骨が通りました。
さらにスタジオゲストとしてタレントのYOUさん、芸人のカズレーザーさんにオファーをしたところ、こちらも運よくOKをいただき、制作チームの希望通りの体制が整います。キャストが固まった段階で、スタジオセットの企画デザインもスタート。いよいよ新番組の“画”が、はっきり見えてきました。
新番組の立ち上げ当初は、あまりに徒手空拳で、やるべきことの輪郭すらつかめず、苦労の連続でした。しかし、途中からは「この試行錯誤こそが、仕事の面白さなんだ」と意識が変化。アイデアと行動力とプレゼン次第で、どんな世界観も、いかようにも創造出来ますからね。本当に刺激的な仕事だと思います。


CHAPTER.03
歴史発掘のカギは「メタ情報」にあり
ついに番組制作が始動しますが、そもそもレギュラー番組を目指すには、まず「パイロット版」で成果をあげなければいけません。このパイロット版で、私は2019年8月放送の第3弾のディレクターを担当。この時は、歴史的人物3名をピックアップし、そのうちの1人がジャクリーン・ケネディ・オナシスでした。
ジョン・F・ケネディの大統領夫人として、世界中で愛されたジャクリーン。その姿を、大統領就任式や暗殺事件の映像を見たことがある人も多いでしょう。ただし、我々が提示したいのは既知の事実ではなく、多くの方が「知らなかった」と驚くような側面です。
そこで、まずは『映像の世紀プレミアム』で収集したノイズだらけの素材を、何本も何本もチェック。さらに映像探しの肝と言えるのが、「メタ情報」をリサーチすること。ジャクリーンの自伝や文献を読み込み、映像が撮影された当時がどんな社会情勢で、彼女が人生においてどういう状況を迎えていたのか。そうした情報を踏まえると、何気ない動作や表情に潜む“違和感”や“意味”が浮き上がってくるんです。
実際、この時もあるプライベートフィルムのワンシーンから、彼女がファーストレディのイメージを守るべく、密かに取り組んでいた行動を発掘。こうした様々な映像を編集してまとめ、スタジオ収録に臨みました。たけしさん、YOUさん、カズレーザーさんという業界の第一人者に自分のVTRを見てもらう――。文字通り緊張の一瞬でしたが、だからこそ、「へえ!」「これは知らなかったな」と率直なコメントが漏れ、現場の盛り上がりを体感した時は、ディレクターとしてこれ以上ないほどの快感でしたね。

CHAPTER.04
答えはない。責任はある。だから、面白い。
とはいえ、この「へえ」の一言を引き出すことが、すごく難しい(笑)。思いもよらぬ方向へ話題が転がることもしばしばで、制作者の傲慢を正される場にもなっています。また、スタジオ収録以上に驚かされたのが、放送前に行ったモニター調査でした。5~6名の一般市民の方に番組を試聴していただいたのですが、大小問わず厳しいご意見が噴出し、総評は「つまらない」という散々な結果に…。
番組の出来には自信があったので、打ちのめされる思いでした。しかし、本放送が行われると、今度は期待以上に高い視聴率を記録。モニター調査を受けて出来る限り再編集を行ったとはいえ、これはどういうことだと首をひねりました。そこで分かったのは、「番組制作に正解はない」という事実。だからこそ、ディレクターは「自分はこういうものをつくりたい」という確固たる想いを持ち、勇気を持って決断しなければいけないんだという、この仕事の本質が見えた気がしました。
『たけしのその時カメラは回っていた』はおかげさまで好評をいただき、2020年4月からは月1回のレギュラー放送がスタート。日本の戦争プロパガンダやアメリカ大統領選など、多彩なテーマのもとで皮肉やユーモアを込めて歴史の裏側を伝え続けています。
今、コンテンツ業界は百家争鳴の時代を迎えていますが、その中でもNHKグループはどこよりも厳しい目が向けられている、「逃げられないメディア」だと思うんですね。私はこの立場だからこそ、出来る仕事があると信じています。最近では、動画配信サービスを用いた発信も出来ますし、表現方法も多様に広がっています。これからもNEPだから出来る、社会のためになるコンテンツ作りを模索していきたいですね。
2021年3月取材