WORK

NHKの自然科学番組の代名詞である「ダーウィンが来た!」と「ワイルドライフ」。総勢20人以上いるディレクター陣のなかから、岐阜の里山で育った自然が大好きなディレクター・Tのストーリーをご紹介します。人間のように企画説明をして取材に臨むのとはわけが違う野生動物が相手の取材は、常に予想外の連続。だからこそ、“何か”が撮れた時の「感動が大きい」とTは話します。
T
プロフィール
- 所属
- 自然科学部
- 出身校
- 筑波大学大学院 生命科学研究科(気候・気象学専攻)
- 出身地
- 岐阜県
- 趣味
- 愛犬の散歩
- 入社の決め手
- 自然科学ドキュメンタリーの制作者になるため。

経歴
- 2012年4月
- 新卒入社
- 2012年5月
- 研修期間 自然科学番組「ニッポンの里山」制作に携わる
- 2013年7月
- 研修期間 NHK仙台放送局にて 報道番組ディレクターを担当
- 2014年7月
- 企画事業部へ配属
「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」に競技担当として携わる - 2017年7月
- 自然科学部へ配属
「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」のディレクターとして携わる




CHAPTER.01
4年目で念願の自然科学部へ配属
私が入社したのは2012年4月。研修期間では自然科学番組「ニッポンの里山」の制作に携わったほかにも、報道番組のディレクターを担当しました。2014年には企画事業部へ配属され、「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」の競技担当に就任。念願の自然科学部へ異動したのが、4年に及ぶ研修期間が終わった2017年のことでした。
それ以降、「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」のディレクターとして携わっています。ディレクターは生きものの生態ドキュメンタリーの企画・撮影・編集を担当します。入社時から希望を出していたので、自然科学部への配属が決まった時は本当にうれしかったです。
「ダーウィンが来た!」は、NHK総合で毎週放送している28分の自然科学番組です。番組キャラクターである“ヒゲじい”などの軽快な演出で、大人から子どもにまで自然の魅力を伝えるのが番組の使命です。
「ワイルドライフ」は、NHK・BSで毎週放送している90分の自然科学番組です。(ディレクターは生きものの生態ドキュメンタリーの企画・撮影・編集を担当)本格的な自然ドキュメンタリーとして、玄人にも満足してもらえる自然映像を届けています。

CHAPTER.02
企画のネタは「社外にあり」
自然科学部へ配属されたばかりの頃は、企画を考えるためにインターネットで動物の生態を調べることに注力していましたが、ある時、上司に「現場に出てみたら? インターネットで1週間調べるよりも現場で1時間人と話をするほうが、何か見つかるかもよ」と言われました。それからは、社外に話を聞きに行くことで企画のネタを見つけるようにしています。
たとえば、国内外の研究者に連絡をして、インターネットや図鑑に載っていないことを聞けた時に「そんなにおもしろいことがあるのか!」と、企画の立案につながっていきます。撮影期間は、企画によってさまざま。野生動物の暮らしに合わせて撮影を計画するため、1ヶ月で終わることもあれば、数年に及ぶ撮影になることもあります。
CHAPTER.03
住み込み取材で得た感動を番組に
コロナ禍で海外への渡航が難しくなってしまった2020年。北海道に拠点を移して制作を進めました。ひとつの地域で複数の企画を提案して予算をつくり、現地に賃貸を借りて生活。4年間で11本もの企画を北海道から生み出すことができました。地域に根を生やした濃密な制作期間は、非常に大きな成長体験だったと感じています。
まず、キタキツネの番組。海辺でキタキツネの家族がいると聞いて撮影に行くと、1匹の子ギツネが足を怪我して引きずっていました。この子は生きられないかもしれない、と直感的に感じたのを覚えています。ある時、その海辺の河口にサケとマスの大群が押し寄せ、産卵のために川に遡上し始めました。するとキツネたちが巨大な魚を次々と狩りし始めたのです。ところが怪我をした子ギツネは、兄弟ギツネの食べ残しのマスをいつも食べていました。狩りがうまくできないからです。
しかし、ある時、母親の狩りの様子を見て気づいたのでしょうか。それまでは水遊びのようにしていたその子ギツネが、耳をピーンと立てて魚のいる位置を把握し、サケを仕留めることに成功したのです。兄弟ギツネが獲っていたのはマスで、サケはマスよりも大きく狩りが難しい。これには感動しました。野生動物の生きることへのひたむきさを感じた瞬間です。想定外の事態が起きた時こそ、想像を超えたドキュメンタリーが制作できるのです。

CHAPTER.04
番組は放送だけでは終わらない
ほかに印象的だった撮影は、放送までに2年掛かった絶滅危惧種のシマフクロウです。研究者、国と一緒に保護に努める個人の方などの協力があって成し遂げられた企画なのですが、この回は放送後に映像を活用したイベントも企画して開催しました。参加者は20人ほど。視聴者数と比べれば少ない人数ですが、映像を見る人の反応を間近で見て、参加者と会話を交わすことで、自分の仕事や番組に込めたメッセージが伝わるよろこびを感じられました。
NEPでは放送からイベント事業への展開にも力を入れています。番組制作者にとどまらず、多種多様な方法で自身の知識・経験を社会に還元できる可能性を持っています。
将来、関わってみたいのは、世界に通用する自然科学ドキュメンタリーの制作です。自然科学映像に言語や国の壁はなく、良質な映像は世界で評価されます。これから先の制作において、高い視野をもって、世界に通用するドキュメンタリーの制作がしたいです。
2024年10月取材