WORK

毎週月曜日の午後10時から放送されている「映像の世紀バタフライエフェクト」。1995年に放送された「映像の世紀」シリーズの最新作として、2022年からレギュラー放送が始まった45分の番組です。「菊池寛賞」(2022年)や、ギャラクシー賞の年間特別賞(2022年度)を受賞した同番組がいかにつくられているのかを、ディレクター・Oの仕事ぶりを通じてご紹介します。
O
プロフィール
- 所属
- 社会文化部
- 出身校
- 京都大学文学部
- 出身地
- 奈良県
- 趣味
- 演劇制作・鑑賞、野球
- 入社の決め手
- NHK番組が好印象だった/NEPは幅広いジャンルを作っているから

経歴
- 2013年4月
- 新卒入社
- 2013年5月
- NHK首都圏放送センターに出向し「おはよう日本(首都圏)」を担当。
- 2013年10月
- NEP制作企画配属。「震災証言プロジェクト」「Nスぺ人体」「判事マツケン(提案・PD)」「謎解きLIVE」などを担当。
- 2015年3月
- NEPドラマ番組部にて演出部。「木曜時代劇・まんまこと」、サード助監督を担当。
- 2015年6月
- NEP番組展開センター・コンテンツ展開に異動。DVD・BDソフトの企画営業。
- 2017年
- NEP情報文化番組部に異動。以後同部にて番組ディレクターを担当。




CHAPTER.01
現在と地続きにある過去を描く
「映像の世紀バタフライエフェクト」は、「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」がテーマの番組です。
世界中に保存されている記録フィルムを駆使し、歴史の結びつき、つながりを“バタフライエフェクト”として紹介していく内容です。20世紀から21世紀にかけて、世界では2度の大戦や東西冷戦、テロリズムと、悲惨な事件が数多く起こりました。また、黒人や女性の人権問題など、厳しい闘いの末に改善してきたものもあります。現在の世界情勢につながっているさまざまな事件について、人類の勇気の連鎖、時には罪や苦悩の連鎖を切り口に描いています。
番組は記録フィルムを中心に構成しており、ロケがほとんどないのが特徴です。そのため、「各ディレクターが過去の映像を見て何を視聴者に伝えたいと感じたか」が如実に出る番組でもあると思います。

CHAPTER.02
日本で手に入る資料は可能なかぎり読む
同番組はNHKが担当する回とNHKエンタープライズが担当する回があり、割合はだいたい半々くらいです。ディレクターの数は同時に10~15名ほどが常に動いています。番組の制作が始まるタイミングで決起集会があったのですが、各部署から精鋭や大ベテランが集まっていて、「自分は、この手練れのディレクターたちと肩を並べないといけないのか」と思ったのを覚えています。「映像の世紀シリーズは学校で教材として使われることもあると聞きます。私は歴史ドキュメンタリーに携わるのは初めてでしたし、NHK総合の午後10時台というプライムタイムです。視聴者からの期待に応えたい、周りに負けないようにしたい、と発奮しました。
1回分の番組をつくるのにかかる期間は、約3ヶ月です。日本で手に入る資料は、図書館にあるものを含めてできるだけ目を通すようにしています。その後、必要な知識を身に付けた状態で、著名な専門家の方に話を聞きに行きます。やはり、昔の本よりも専門家の方が最新の情報をお持ちですから。
最初に私が担当したのは、宇宙開発に関する歴史です。アメリカとソ連のどちらが先に月に行くか、の競争です。初めは純粋に宇宙を目指して研究されたロケットが、戦争のために兵器として誕生し、戦後は東西冷戦に利用され、宇宙に人を届けると。どのようにして、物事が絡み合ってバタフライエフェクトを起こすのかを強く意識しながら、番組をつくりました。

CHAPTER.03
堅い番組こそ、NHKで取り組みたい
プレッシャーこそありましたが、放送が終わってみると、非常に多くの感想が届きました。テレビを見る人が少なくなっていると言われるなかで、こんなにも反響があるのかとうれしくなりました。
堅い内容の番組なので、当初は「興味をもってもらえるだろうか?」という疑問も内部にはあったようですが、予想以上に多くの反響があったおかげで、「やはり堅い内容も大事だ、見てもらえるのだ」という声を聞くことも増えました。ロシアによるウクライナ侵攻なども発生し、現在の世界情勢の根本には何があったのか、歴史的な視座が求められる時勢となったことも大きいのではないでしょうか。
公共性があり、硬軟織り交ぜた番組づくりあってのNHKですから望ましいことだと思います。NHKこそ、正面から社会的・歴史的テーマに取り組んでいくべきだと思っています。歴史的事実を丁寧に調べ、今の時代に何を問いかけるべきかを常に意識しながら、番組をつくるように心掛けています。

CHAPTER.04
チャレンジを貴ぶNEPの気風
自分なりの番組作りや、構成の仕方が少し見えてきたかな、という手応えを感じさせてくれた「映像の世紀バタフライエフェクト」のほかにも、素敵な経験になったことがあります。それが、映画「うかうかと終焉」の制作です。
僕は大学時代に演劇をしており、社会人になってからも自費で演劇を続けてきました。この作品は、NEPの先輩と一緒に書いて上演し、第23回日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞したものです。それが数年たって外部の映画プロデューサーから、映画化しないか、というお誘いがありました。NEPの上司に相談したところ、快く応援してくださり、業務量の調整もしてくれたことで、私は監督と脚本を担当し、映画化を実現できました。会社に勤めながら、こんなこともできるのかと非常に驚きました。
NEPにはチャレンジを貴ぶ気風があります。私の所属する社会文化部は、テレビ番組だけでなく、イベントの映像やイマーシブアートなど、メディアを横断して制作することができる環境。いろいろとやりたいことがある人にとって魅力的だと思います。実際、何かチャレンジをしたい時は「うかうかと終焉」の映画化の時のように背中を押してくれますしね。私も今は「映像の世紀バタフライエフェクト」と並行して、初挑戦のイマーシブアートのプロジェクトにも参加しており、新鮮な毎日です。
2024年10月取材